小児矯正(咬合誘導・咬合育成)って
いつからはじめるの?
小児矯正というと一般的には『小児用の矯正装置を用いて矯正すること』をさします。
咬合誘導とは、『子どものかみ合わせを育てていくこと』、咬合育成とは、『乳歯が生え始めた頃より子どものお口を診ていき、将来歯並びが悪くなる兆候がある場合には、早期に発見し、改善することで正しいお口の発育を促すこと』です。
咬合誘導・咬合育成は、生後半年前後で歯が生え始めた頃から歯科検診をおこない歯の健康を維持し、むし歯・歯周病の予防処置をおこないながら、食形態や食べ方の指導や食育をさせていただき、ちょっとしたMFT(筋機能療法)を生活に取り入れてもらい、むし歯・歯周病ゼロでかつ、歯並びかみ合わせが良くなるようお子さんのお口と顎の健全な成長を促していく治療となります。
つまり、咬合誘導・咬合育成を始める時期は『歯が生え始めたら』ということになります。
小児矯正では、マイオブレースをはじめとしたマウスピース型筋機能矯正装置をつかえる年齢は『4歳前後』からとなります。3歳児検診ですでに歯並びが悪くなる兆候の見られたお子さんはなるべく早くMFTを開始し、場合によってはすぐにマウスピース型筋機能矯正装置を用いた小児矯正を始めることをオススメしています。
早期の治療が必要なケース
次のような場合は、咬合誘導・育成を含めた早期の矯正相談をご提案しております。
乳歯が生えそろう3歳前後に以下の項目が当てはまる場合は矯正相談をオススメしています。
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前歯の部分にスペースがない、隣り合う歯同士がつまっている
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乳歯の前歯の部分には霊長空隙と発育空隙と呼ばれるスペースが無くてはいけません。スペースが見られないお子さんは乳歯が抜けて、乳歯より大きい永久歯が生えてくる際にスペースが不足するので、永久歯に生え変わると必ず叢生になってしまいます。
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八重歯や前歯が重なり合い、でこぼこしたり、歯同士がつまっている(叢生)
受け口(反対咬合、下顎前突)になっている
出っ歯(上顎前突)や切端咬合になっている
上記に該当するような場合、お子さまの成長段階を見て、例えば1歳半くらいから食育をメインとした咬合誘導・咬合育成をおこなう、もしくは3、4歳からマウスピース型筋機能矯正装置を用いるなど、できるだけ早期に治療を始めることで、顎の成長をコントロールし、永久歯がきれいにならび、本格的な矯正治療が必要なくなる可能性が高まります。
※子どもの矯正においてはご家族の協力が必須です。親御さまとお子さま、ご家族が一緒に目標へ向かうことができていると早期に改善をすることが可能です。
また、途中で治療をやめてしまうことがないように、親御さまだけではなくお子さまにも、矯正治療の必要性を少しでもご理解いただく必要があると考えております。
予防矯正
咬合誘導・咬合育成を行っていて、将来、歯並びが悪くなることが予想される場合に、顎の成長をコントロールして歯列のスペースを確保するため矯正装置を使った予防矯正をおこなう場合があります。
予防矯正で使用する装置
お子さまの年齢や成長状態などに応じて、最適な装置を選びます。基本的には取り外し可能な矯正装置を使用して治療を行いますが、年齢や状態によってはワイヤーブラケット矯正を使用する場合もあります。
マウスピース型筋機能矯正装置
上下一体型のマウスピースとMFTを併用し、お子さまのあごの正常な成長と口腔周囲筋の機能を正すことができる装置です。
- マイオブレース
- パナシールド
- ムーシールド
床矯正
特に狭窄歯列で顎の横方向の成長を促したいときに使用する装置です。
- 拡大床
- SHアライナー矯正
マウスピース矯正
取り外し可能な透明で目立ちにくいマウスピースを装着して歯を動かします。食事や歯磨きなどを普段どおりに行えるため、生活に支障をきたすこともありません。
- インビザラインファースト
ワイヤーブラケット矯正
以前からある最もスタンダードな矯正治療法です。1期治療としてマウスピース型筋機能矯正装置を使う場合もあります。
予防矯正の開始時期の目安
当院では基本的に歯科検診や予防処置を兼ねながら、お子さまの成長段階を見て、矯正についてのアドバイスや説明を心掛けるようにしております。
最近の親御様の傾向は、歯が生え始めた頃から健診とフッ素塗布等の予防処置を兼ねて来院し、食育や食形態をメインとした咬合誘導・咬合育成をおこなう、意識が高い方が多くなっています。
近年の歯科医院は『虫歯があるから行く』という、病気になってから行くのではなく、『虫歯や歯周病にならないように予防に行く』という、健康な方も通院するところに変わってきました。なぜなら、虫歯や歯周病はなってからでは遅く、歯科の病気は自然治癒しません。虫歯であれば削ってつめたり、かぶせたりする必要があります。手や足で言うのであれば義手、義足にしていることと同じことだからです。どんなに高価な治療をしてもご自身の本来の歯にかなうものはありません。
以下は目安となります、参考にされてください。
0歳~3歳
歯が生え始めた頃から2歳半くらいまでは矯正装置を入れたりすることはしません、食育や食事のとり方、与え方、簡単なMFTなどのアドバイスをさせていただき、できるだけご家庭で取り入れていただき、正常な成長を促す形をとります。3~4か月おきに健診と予防処置を兼ねて来院していただき、その際に歯列を見ていく形で、咬合誘導・咬合育成をおこないます。お子さんが歯科医院に慣れる事、歯を強くすること、親御様が歯みがきを上手にできるようにすること、歯科は虫歯治療ばかりする所ではなく健康を維持するためにあるということを知っていただくには最適な時期と考えています。
※簡単なMFTや食育等は保険診療内で行える範囲ですのでご安心ください。
3歳~9歳(就学前~小学校低学年)
三歳児検診や学校歯科検診で、歯並びの問題を指摘されたり、すでに悪かったり、上記「早期の治療が必要なケース」に当てはまる兆候があるお子さんには、マウスピース型筋機能矯正装置を用いて、本格的なMFTを始める事を推奨しています。
10歳~(小学校高学年~)
10歳を過ぎてくるとマウスピース型筋機能型矯正装置ではなかなか改善が厳しいこともあります。お子さんの成長やお口の状態によって、インビザラインファースト(マウスピース矯正)やワイヤーブラケット矯正など本格的な矯正を検討する必要がある場合もあります。
まとめ
できるだけ早期に治療を始めることで、顎の成長をコントロールすることができ、結果として永久歯がきれいにならび、本格的な矯正治療が必要なくなる可能性も高まります。
そのため、歯が生え始めた頃から予防だけでなく咬合誘導・咬合育成に配慮した歯科医院への受診をオススメしております。
予防矯正のメリット
顎の成長をコントロールして歯列を広げることで、将来的に非抜歯で矯正治療ができる可能性が高まります。
美しい顔立ちへと導ける
顎の正常な発達を促すことで、歯並びや舌癖、口呼吸などを改善し、顔の成長バランスを整えます。
将来、抜歯を伴う矯正治療が必要になるケースでも、予防矯正によって抜歯を回避できるようになる可能性があります。
このように、顎や顔の成長をコントロールできるのは、成長期だけです。
学習能力と免疫力と身体能力の向上
よいかみ合わせをつくり、悪習癖を改善することは学習能力の向上と身体能力の向上につながるという事が判明しています。
動物は皆鼻で呼吸します、人間も同様に口呼吸をしている状態は異常とされています。
口呼吸を続けると集中力が欠如しやすく、ダイレクトにのどに外気が入ってくるので、感染しやすい状況になり、アレルギー症状も起こしやすくなる等のデメリットもあります。
コロナ禍でマスク生活が続いていますがマスクは口呼吸を助長しますので、近年ではマスク生活による健康の弊害も示唆されています。
また、よいかみ合わせがあることは上下の歯で、しっかり力を入れることができるため踏ん張りもきき、運動能力のパフォーマンスアップにつながります。
滑舌が良くなり発音がよくなる
健全なアーチの歯列を作ることや、舌癖および低位舌を改善する事により、発音がしやすく明瞭になります。
現在は、グローバル社会となり海外では特に発音を重視します。
歯並びと悪習癖を整えることは、発音の良さにもつながります。
口臭・虫歯・歯周病の予防と健康寿命が伸びる
歯並びが悪いとプラークがたまりやすくなるので、口臭や虫歯や成人してからは歯周病の原因となります。
また、口呼吸があることで、口が乾燥しドライマウスとなり、唾液の殺菌消毒作用が妨げられ細菌が発生しやすい環境となるので口臭を助長します。
歯並びが悪い状態や口呼吸があれば虫歯や歯周病で歯を失うリスクも高くなります、歯を失うと健康寿命が短くなり、医療費全体の費用も高くなることが厚生労働省より発表されています。
歯並びや口唇閉鎖力を整えることで、プラークがたまりにくくなりますし、口呼吸を改善できるので予防につながります。
コンプレックスの解消
出っ歯や受け口、叢生などの悪い歯並びがコンプレックスとなり、人前に出てしゃべれない、満面の笑顔ができない等で、精神発達に悪影響が及ぶという研究報告が海外ではあります。
欧米諸国では、歯並びが悪いことはデメリットとして扱われます。
小児矯正で歯並びを整えることにより、健全な精神発達を促すことにもつながります。
食事がおいしく、消化器への負担を減らし肥満の予防
よい歯並びと、よいかみ合わせを手に入れることで食事がつまったりせずおいしく食べれるようになり、しっかり咀嚼できることで唾液の酵素と食物が混ざり胃腸等の消化器への負担を軽減しますし肥満への予防にもつながります。
永久歯での矯正期間を短縮できる
子どもの頃に顎の成長をコントロ-ルすることで、永久歯がきれいに並びやすくなります。
その結果、大規模な矯正治療が不要になり、矯正期間を短縮できます。
あるいは、矯正治療そのものが不要になるなど、大幅な負担の軽減が可能です。
歯列のスペースを確保する
顎の成長をコントロールして、将来的に永久歯が生えるスペースを十分に確保します。
大人になってからの抜歯を回避できる可能性が高まります。
お口の本来の機能を取り戻せる
指しゃぶりや舌癖などは、食べ方や飲み方、発音などに悪影響を及ぼします。
さらに、口呼吸の癖もついてしまい、唾液の分泌が減少することでむし歯や歯周病のリスクが上がるケースもあります。
口周りや舌を正しく使うトレーニングを行い、本来の口腔機能を取り戻します。
予防矯正の限界
中等度以上の骨格に問題がある場合、咬合誘導・咬合育成でも発症を防ぐことは困難です。例えば、骨格がずれているタイプの出っ歯や受け口が挙げられます。咬合誘導・咬合育成の一環で筋機能矯正装置による矯正治療を受けても、抜歯を伴う矯正治療や骨にアプローチする外科矯正が必要になる可能性があります。実は、筋機能矯正装置を用いた矯正治療の効果について否定的な考えを持つ歯科医師もいるのですが、現在世界的にその有用性が認められており、当院も実績がありますので、私の見解は咬合誘導・咬合育成を行った方が、将来的に抜歯を伴う矯正治療が不要になる可能性が高いという事です。
当院では、検査後に説明をする時間を持ち、お子さんの状態を説明しております。また、治療開始後思うように使用できなかったり、予想より成長を促せないような場合は将来的に、本格的な矯正治療や、抜歯を伴う矯正治療や外科矯正など必要になる可能性が判明した時点で、その旨をお伝えし、場合によっては治療方針を修正したりします。
このように、早期の矯正治療には限界があることもご理解ください。